時効取得による所有権移転登記

先日、相続登記のご依頼がありました。
土地3筆、建物3戸です。
そのうち、土地2筆と建物2戸は、被相続人の名義でしたので、問題なく相続登記ができました。
問題は残る1筆と1戸です。
これは、ご依頼人のお父様が、第三者から購入したものの、所有権移転登記をせずにそのまま放置されていたというケースです。
それぞれ購入時期は昭和38年頃、権利証はお持ちですし、土地については、ずっと固定資産税も納付されています。(建物は評価額が低いため非課税)
お話を聞いてみると、過去にお父様が存命中、所有権移転登記をしようとしたみたいですが、所有者の行方が分からず、登記に協力してもらえなかったようです。
現在の建物の状況をお聞きすると、長屋の3戸を改築して1戸の住居とし、ご依頼人がお父様の生前から同居しており、いまもお住いであるということです。
お父様が亡くなってからもすでに20年が経っていますし、ご依頼人がそこに住むようになってからなら当然に20年以上です。
そこで、これは、訴訟により所有権移転登記ができるのではないかと考えました。つまり不動産の時効取得です。

<所有権の取得時効 >
民法第162条
1.二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。
2.十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

さて、訴訟を提起するには、被告へ訴状が送達されますので、被告の住所の確認が必要です。
不動産の登記簿を確認すると、所有者の方の住所は、今でいう住居表示される前らしく、地番っぽい表記です。昔は、本籍地で登記されることもあったようですので、それかもしれません。
ひとまず、区役所へ行ってその表記住所で、住民票、なければ戸籍の附票を請求します。
今回の場合は、どちらも取得できなかったため、不在籍、不在住証明を取得しました。
これは、公示送達でいけるパターンのような気がします。それならば、結構、訴訟もスムーズに進みそうです。

<公示送達とは>
民事訴訟法で、名宛人の住居所不明などの理由により書類の送達ができない場合に、送達しなければならない書類をいつでも交付する旨を、一定期間、裁判所の掲示板に掲示することによって送達の効果を生じさせる方法のことを言います。

ただし、公示送達のハードルは非常に高いです。調べ方が甘いと、受理されません。

よって、次に行ったのは、中央図書館で、古い住宅地図を調査することです。
登記簿記載の住所は、昭和30年当時の住所です。
神戸中央図書館所蔵地図で最も古い昭和31年当時の住宅地図にて該当住所を調査しましたが、番地が特定できず、かつ、被告名の住宅も見つかりませんでした。
よって、現地調査は断念し、その調査結果をもって、公示送達の申立てを行い受理されました。

但し、念のため、登記簿記載の住所に訴状の送達をしてみて、不送達となったら公示送達で行きますと書記官の方に言われました。

その後、無事、公示送達実施、掲示後2週間の経過をもって、送達の効力発生。

そして、第1回口頭弁論期日が決まり、期日に出頭し、証拠調べの実施、そして即日判決の言い渡しがありました。

その後、原告代理人に「口頭弁論調書(判決)正本」が送達され、被告に対しては、「口頭弁論調書(判決)正本」がやはり公示送達されます。
この公示送達は2回目ですので掲示の翌日に効力が発生し、その後2週間の経過をもって判決が確定します。

今回の訴訟は、所有権移転登記手続請求事件ですので、判決が確定した後、「確定証明書」を簡易裁判所にて発行してもらい、判決正本+確定証明書を登記原因証明情報として、所有権移転の登記申請をします。もちろん、権利者の単独申請が可能となります。

先日、無事、確定証明書を取得し、登記申請を実施、登記が完了しました。

そして長年、他人名義のままの不動産にお住まいだった依頼者様には大変喜ばれました。

今回は公示送達という形がとれましたので、比較的スムーズに手続きが進みましたが、被告が判明したり、もし被告がすでに死亡していて相続人が判明したりしたら、それはそれで結構煩雑な手続きになったのかなと思います。

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